2019年3月28日
[黒田]
最後に、今更感もありますが写真の話をしましょうか。何度かブックを拝見していますが、作品から仕事から幅広く撮られてますよね。例えばこのKODAKの写真とか、幻想的ですよね。
[高井]
これね、水槽にりんごを浮かべて、色を自分でつくるために試行錯誤したよ。水を透過して光が屈折するから水面の波紋によって光が微妙に変わったりする。
[黒田]
へえ!すごい!フィルムでこれって想像できないですね。多重露光のところが幻想的ですね。
[高井]
当時の方向的には新しかった。色は全部完全に合わせると真っ白になるから。
[黒田]
光の三原色ですね。
[高井]
そうそう。青、グリーン、赤。全部当てると真っ白になる。調整次第様々な色に変わる。黄色になったり、青緑になったり、グリーンになったり。
光の三原色を利用してる。
[高井]
こっちの写真はちょうど娘が生まれた時に娘の手形の型を暗室でつくって、そこから針で穴を開けて、光をあてたものだね。そして三原色を利用して、開けた穴から写る光をさらに間引きできるような仕掛けをつくって、間引きしながら何回かやると重なってくるところとそうでないところができるんだよ。だから色が残るところと残らないところができる。
[黒田]
この色がすごいですね。
[高井]
色はコントロールができるから。
[黒田]
バランスがキレイです。
[高井]
これは偶然の妙だね。人間がちゃんと撮る写真と、偶然撮る写真の差だと思うな。偶然が入り込むというのは神の領域というか、そこに面白さがある。水は偶然の要素が入ってくるしね。
[黒田]
そうですね。神の領域というか、ある程度ゆだねるというのも大切なのかなと思ってます。
[高井]
光で印象的なものをつくろうと思って、1年間ずっとそればかりやってるよ。
[黒田]
ほんとに好きなんでしょうね(笑)、というか楽しんでる。
[高井]
これは昔の実績の写真だけど、ある時日本画もやらないといけないなと思って、日本画をやらせてくださいとプレゼンテーションをして、これをだいたい1年間やってた。日本画だとやはり琳派。要するに風神雷神。
[黒田]
これも多重露光というか、合成ですか?
[高井]
うん。まず鯉を買ってきて、いろいろな形で撮って一番いいものだけを残す。で、鯉の上に金箔も貼る。金箔自体も一つのフィルターとして撮っておいて、あとは墨絵は自分で書いてそれも撮ってフィルターにしておいて、最初に撮った白い鯉の上に金箔でつくったフィルターをのせると鯉が金色になるわけ。その写真に墨絵で書いて別撮りしたものと金箔だけで別撮りしたものをマスクするとここが写るんだよ。要するに版画の理論。
[黒田]
なるほど。当時はいまと比べ物にならないくらいの手間がかかるんですね。
[高井]
デジタルだと簡単みたいだけどね。
これもようはブツ撮りで、物なんですけど、物も単なる形ではなくて言葉を発するんだと思ってやってるんだよ。ここに至るまでに物には物の言葉があるんだというものを撮ってきた。要するに商品は商品だけれども物にも物語があるという思想でね。
[黒田]
なるほど。そういう考え方というのははじめて聞きました。新鮮ですね。
[高井]
物が語るように撮るのは難しい。
あとはアーヴィング・ペンとかは越えられないって思ってしまうよね。
[黒田]
うーん、まあ。越える、越えないというよりも「あれだよね」となってしまうんでしょうね。
[高井]
でもニック・ナイトはそれらの作家を超えていると思う。
[黒田]
ニック・ナイトは僕も一番好きです。
[高井]
素晴らしいと思う。あの品の良さはかなわない。
[黒田]
僕は後追いでしか知りませんけど、あの人は写真の時代を変えた感がありますよね。
[高井]
あの人は本当にすごいよ。
[黒田]
最強ですよね。
もうそれなりの年齢だったと思いますけど。
[高井]
もう60いくつだったかと思う。私が最初に見たのはゾクッとするほどの裸の写真。
[黒田]
わかります。
[高井]
色気ではなくて、いやらしさを通り越した色気や生々しさがある一方で品のいい裸の写真だった。
[黒田]
生々しさというのは生感ということですか?
[高井]
生感ではないね。何かそそるような気品のある生々しさというか。あれはすごいなと思った。
[黒田]
自分の道を自分でつくっているところがすごいなと思います。
[高井]
青山で行われた押し花の写真の展示会はよかったみたいだよ。
[黒田]
僕もそれに行きたかったんですよね。
[高井]
発表は20年ぐらい前だけど押し花もきれいだったね。あとはドロドロの写真とかもあるんだけど、そちらはあまりにも計算高すぎてやらしく感じる。
[黒田]
打算的な写真なんですね(笑) うーん、でもニック・ナイトはいいですよね。写真集が出てないのかなと思うんですけどね。
[高井]
写真集はいっぱい出てるよ。
[黒田]
そうなんですね。でも全然手に入らないんですよ。
[高井]
押し花はいろいろ写真集が出てるから見てみるといいよ。最新の写真集よりいいね。これは最新の写真集なんだけど撮るだけが仕事になっているからかつまらないんだよ。一つの絵として存在してないなと思っちゃう。
[黒田]
いや、面白いです。
写真と生きるというテーマでしたが、まさに半生を写真と共に生きている人の、生態含めてお伺いできたので楽しかったです(笑) 自分が写真をはじ
めてからずっとお付き合いがありますが、こうしてあらたまって聞くのも初めてだったので。
新しい試みを柔軟に取り込む高井先生のこれからの活動と写真業界との関
わりが楽しみです。APAでもお世話になっていますが、公私共にこれから
もよろしくおねがいします。
本日はありがとうございました。
[高井]
ありがとうございました。
プロフィール
高井哲朗
公益社団法人 日本広告写真家協会(APA)副会長
APAアワード 写真作品部門 審査委員長
1978年 フリーとして活動
1986年 (株)高井写真研究所設立。現在広告写真を中心に活動中
受賞歴
1984年 第20回 広告部門 APA賞受賞 (Kodak E-6ポスター)
1987年 第29回 雑誌広告賞受賞(AMEX Gold Card)
第7回 ラハティ ポスタービエンナーレ 第1位(New Basics ポスター)
1988年 第22回 広告部門 APA賞受賞(Uyedaジュエリー雑誌広告)
1989年 第30回 クリオ賞 プリント部門受賞(ハワイアントロピカルポスター)U.S.A
1992年 第35回 The Newyork Festivals Finalist Award (Kodak雑誌広告)
2002年 第30回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞
2003年 第31回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞
2007年 第35回(社)日本広告写真家協会公募展 APA 奨励賞受賞
クレジット
制作 出張写真撮影・デザイン制作 ヒーコ http://xico.photo/
カバー写真 黒田明臣
出演 高井哲朗
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2024年10月25日 発行
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