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撮り続けた先にあるもの

撮り続けた先にあるもの

2017年11月23日

仕事の流儀

3写真集「東京の恋人」より

[黒田]
自分のイメージだと、笠井さんの作風って、いわゆる広告とか商業でやってる「ザ・プロカメラマン」という感じより、すごい作家性みたいなところのほうがイメージとしてあります。
自分が主にやる仕事なんかはもう、これ撮るって大体決まっていて、そこに自分の好み、たとえば構図であったりとか、タイミングとか、写真編集的な、ビジュアル的な部分で介入する余地があまりないんですよね。そうすると結果的に自分の写真かなこれ?と思ったりすることも多いんです。雑誌やカメラ誌なんかは比較的自由なんですけど。笠井さんの写真って、仕事で載せられてるものとか、「あ、笠井さんの写真だな」っていうのがわかる仕事が多いというか。

[笠井]
単純に言えるのは、けっこう仕事の写真は仕事として撮っていることが多いよ。そうせざるを得ないっていうか、あんまり僕の作品性云々っていうことを第一に考えて仕事をしてるわけではないんだよね。
やっぱり仕事のジャンルにもよるかな。あとで仕事のブックを見せてもいいんだけど、それ見るといろんなパターンの写真があって、「え、こんなのも撮ってんの」みたいな感じになると思うよ。

[黒田]
お?、それは見たいですね!

[笠井]
だから仕事は仕事としてやっている部分は僕にもある。それは長年を通してそういうことをやってきていて、全部が全部、この仕事やってます、あの仕事やってますって自分でも言ってないし、隠してるわけでもないんだけど。まあ全部名前は載ってるわけだから。名前が載らないのは広告くらい。そんなに広告はやってないんだけどね。

[黒田]
そうですね、あんまり広告のイメージないですね。

[笠井]
年に何回かやるみたいな感じで。こういうのは当然名前が載らないし。でも雑誌とかそういうのは、やればかならず載るし。
だから別に、あんまり仕事のときに、ものすごく自分の作家性とかっていうものに無理やり近づけたりとか、そういう方向でやりたいっていう風には実はやってない。実は。ただ、たとえばタレント写真集とか、ああいうものはスタイルとしては普段僕がやっているものに近いスタイルでできるから、ちょっとは作品性が高くなる可能性はあるね。
普段やってる雑誌の仕事って、取材が多いんだけど、そういうのって撮影時間10分もないとかだし。僕が二十数年間仕事してきた中ですごい顕著なのは、たとえば映画のプロモーションとか、音楽のプロモーションとかっていうのは、ものすごい合理化されてきているんだよね、取材の形態が。

[黒田]
ワークフロー的な感じですか?

[笠井]
そうそう。それはたぶんインターネットっていうものが出てからのことだと思うんだけど。
インターネットがない時代っていうのは、雑誌が一番のプロモーションだったから、ものすごくそこに力を入れていたんだよね。プロモーションする側も力入れてたし、やる側も力入れてて。たとえば一例として言えば、ある映画ができて、そのプロモーションをやります。その主演の人はいろんな雑誌に出るときに、この雑誌だったら半日かけてやろうとか、半日かけて撮りましょうとなる。
そしたらいろいろ、いろんな場所に行って撮れたりとか、そこに時間もかけられたり、ってことができたんだけど。
今だと、雑誌で表紙巻頭で何十ページっていうのだったら昔みたいな形態もあるかもしれないけど、最近はもう映画のプロモーションと言ったら、二日間スタジオ借り切っちゃって、いろんな媒体がそこにあつまって、いっぺんに撮影するとかが多いんじゃないかな。これは良い悪いの話を言ってるわけじゃないんだけど、結局、そういう流れになってきている。そしてその中でやってることがほとんどなの。

[黒田]
自分はそこまで多くないんですけど、たしかにそういう合同取材みたいな仕事を請けることもありますね。ただそれが当たり前なのかと思ってましたが、昔はまた違ったんですね。

[笠井]
昔は今言ったように、もうちょっと紙媒体に力を入れてたから、プロモーションって。
今ってどっちかっていうと、ネットで先行して配信されるとか、SNSで拡散とか方がやっぱり早いから、あんまり力を入れなくなったっていうのは事実だと思うし。
[黒田]
そうなんですね。自分が見ている限りですけど、笠井さんはじめ昔からご活躍中の先輩方ってあんまりこれやったよって言うわけでもないじゃないですか。自分なんかはウェブに育ててもらった部分があるのでウェブや雑誌の案件であればPRすることも多いんですけど。だから見ている部分が一部というのは大きいかもですね?
しかしこう、作家性を出してるかどうかっていう言い方ではないにしても、笠井さんの仕事写真をみていても二人三脚でやっているようなイメージはすごいあって。

[笠井]
二人三脚っていうのは?

[黒田]
モデルの方とですね。勝手な想像ですけど、ここいいねっていう感じで光や場所をみて撮ったりとか、撮る写真の構図だったりとか場所が自由というか。広告とかそういう決まりきったラフありの撮影でもなく、来てもらって10分で撮って終わりっていう感じでもないし、モデルの方とコミュニケーションがあった上で撮られているというか。
まあなんて表現したらいいかわからないですけど(笑)
そういうイメージはすごくあったんですよね。なので合同取材っぽい撮影もされてるっていうのは意外でした。

[笠井]
時期とかにもよるんだけど、でも半分以上そんなもんだよ。

[黒田]
結構雑誌って、そういう形態が多いんですか?

[笠井]
雑誌はほとんどそうだね。
たまに表紙巻頭何ページやりますっていうときに、すごい時間をもらったりとかっていうのはあるけど。それでも昔のほうが2、3ページの写真でも、結構時間をもらえたりとか、どこどこ行ってもいいとか。たぶん単純に、予算もあんまり出ないとか、色々な要素が絡んでるんだと思うんだけど。そういう意味では自由は少なくなってはいるんだけど、ただそこを強みにしてるわけではないんだけど、仕事に関して僕はすごい早いの。
早いし、迷わないし、ぱっとやったらすぐ決めちゃう、みたいな。たとえば、20分撮影時間もらってても、大体5分くらい余るとか。それは今の環境に合わせてそうしてるわけじゃなくて、もともとそうで。自分でそこの部分を買ってもらってるんだなっていう実感はないけど。

[黒田]
プラスアルファぐらいな。

[笠井]
でもそれがあって、オファーが来ることは多い。
どの環境にも対応するし、ああいう取材とかって不測の事態も起きるし、いろいろとね。「雑誌で仕事するにはどうしたら良いですか」って聞かれたら、とにかく決断力が大事だと言うかな。場数が踏めるかとか。
いい絵を撮れるとか、技術がどうとかではなくて、その場に行ってその場にすぐ順応できて、すぐに結果を出せる人が仕事できるよってことだと思うし。それはもう確実にそうで、昔からやってきてる上のカメラマンも、そういうスキルを身につけて今でもやってるんだと思うのね。

[黒田]
応用力というか。

[笠井]
本当、そこだけ。そういうときに、あんまり作品性とか、頭にはないっていうか。

[黒田]
だから早いというか、ある種、雑誌を撮るにあたって、非常に効率的なスタイルですね。

[笠井]
あとこれは作品と共通する部分だと思うんだけど。絵コンテがあって、こういうものがありますっていって。広告なんかも特にそうなんだけど。これは当たり前の話なんだけど、言っちゃえば絵に近づけていく作業。
雑誌の仕事は、僕の場合はだけど、じゃあこういう絵を撮ろうっていうのは一切考えないの、現場入るまで。たとえばページ数がある程度あって、こういうコンセプトでっていうのはあるかもしれないし、そういうのは打ち合わせの中ですりあわせていくとかそのぐらいはあると思うし、この被写体だったらこういう絵が欲しいですっていう要望があったらやるんだけど。事前に絵は考えない。
色々なコンセプトとか、やんなきゃいけないものだけはちゃんとイメージして頭に入れといて、実際じゃあこうしてこうしてこういう絵を撮ろうっていうのは、現場に入るまで想定しなくて。
どっちかっていうと、撮影を始めてからそれを作り上げていくっていうか、自分の中でこういうことだな、みたいな感じにしていくっていう流れで撮影するのね。それは30分の撮影だろうが、一時間の撮影だろうが、5分の撮影だろうが、一緒なの、これは。

[黒田]
5分でもですか(笑)

[笠井]
5分でも。ある程度決まってるよ。箱も、ライティングも決まってるし。
でも最終的に人が目の前にいて、その人をどう撮るかっていうのは、カメラを構えて実際に撮り始めてから作り上げるものだと思う。
僕はそういうやり方をしていて、たぶん被写体もなんとなくそれに合わせていくんだと思うの。うまくいるとのっていくんだけど、絶対にどっかで被写体はテンションが落ちるの。テンション落ちて、マックスまでいった後は、テンションが平たくなっちゃうみたいな。それは撮ってると僕もわかるし、テンションがあがるまでに、4ページだったら4ページ撮る、10ページだったら10ページ撮る、1ページだったら1ページ撮るっていう風に決めてすすめていく感じ。これ以上撮っても変わらないなってなったら、例えばそのときに20分与えられてたんだけど、まだ15分しか撮ってない、ってなっても、それでやめちゃうの。5分あるけど大丈夫ですかって言われても、これ以上撮ってもという感じになる。
それはやっぱり、そういうテンションの持っていき方って、おそらく最初から絵を作っていて、その通りに持っていくやり方とは違うと思うんだよね。だからどっちかっていうとやっぱり、一対一でやりあうみたいなところがあって。もしかしたら、作品性に近い部分を感じるとしたら、そういう部分なんだと思う。

[黒田]
きっとそこなんでしょうね、自分が二人三脚でやってるような一体感を感じたのは。すごく納得感あります。納得感あるというか、ポートレート撮ってると感じるというか。あまりライトな読者向けではないマニアックな内容って言ったら、それまでなんですけど。カメラマン同士のって感じもありますけど。その感覚はでも、わかりますね。自分は昔、絵コンテじゃないですけど、こう撮ろうってある程度決めてた時期もあったんですが、今は化学反応みたいなのを大事にしてます。
しかしその文脈で作品性を感じている部分はありますね。モデルの方の反応とか表情とか、そういう部分のところに何かしら、笠井さんの写真だなと思う部分があるというか。その場の化学反応って言ったらあれですけど、カメラを構えてからの何か。

[笠井]
僕も実は、毎回それをやることで成功するとは思ってないっていうか。自信を持ってやってるわけではないというか。

[黒田]
そういう不安もあるというところは少し安心しました(笑)同じ人間だった。みたいな。

[笠井]
結局やっぱり、いろんな仕事の仕方があって、事前に被写体と会って、ある程度被写体のことを理解して、向こうが思ってることも聞いてっていう流れもタレント写真集とか、そういう大きい撮影のときはそういうこともあり得るんだけど、大半のプロモーションとか雑誌の取材っていうのは、自分がカメラを持って本人がスタンドインするときにはじめて顔を合わせる事も多いから。そこでこうしましょうああしましょうっていうのも含めて撮影時間になっちゃうわけだよね。特にこっちは、こうしてくださいああしてくださいっていうのはないから、撮り始めるしかない。
だからある種、仕事行くまでっていうのはものすごい緊張しているし。緊張している風には端から見えないかもしれないけど。でもそれなりの緊張感は持ってやってるし。逆に、大丈夫だよみたいな、チャラいイメージで自分がそこに行っちゃうと、あとでいろいろ失敗しちゃうんだよね。僕はどっちかっていうと、用心深いっていうか、緊張してるってことは、それなりに、ああなったときにこうしようとか、いろいろ考えてるんだけど。ただそれはこういう絵にするっていうことを考えているわけではなくて、人と対峙したときにどうしようかということをね。

[黒田]
プランB、Cぐらいは考えてはいるけど、このポーズで撮ろうとか、そういう話じゃないってことですね。

[笠井]
じゃない。でもあんまりそれで大きくコケたことはないの、実は。全然噛み合わなかったりってことは、あんまりなくて。

[黒田]
それはそれこそ、職人の域というか。今ってなんでも定量化されて、方法論みたいなのがあって、こうしておけば大丈夫ってなりがちですけど、言葉とか理論で形にできないけど、スキルというか、あるじゃないですか、その人の。
そこがだんだん経験値となって磨かれているんですかね?

[笠井]
毎回びびるけどね。

[黒田]
それも意外ですね?

[笠井]
でもそれは写真をやってるからとかではなくて、やっぱ一応5分与えられたら、すごい真面目なこと言っちゃえば、その5分で、人様に見せられて、お金を払ってもらうような写真をそこで撮らなきゃいけないっていうのはあるから。なおかつ相手の被写体をすごくよく見せるとか、そういったことも、頭にあるから。そうすると、今日イージーだよみたいな、そんな感じにはならないというか。

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