2023年11月24日 PR
建築やデザインから設え、サービス、食事に至るまで。生活の欧米化が進んで久しいが、日本旅館は寺社仏閣とともに古の文化がそのまま守られたタイムカプセルのようにも見える。いまや和室がない住まいも珍しくない現代、旅館は日本文化のテーマパークとも言えるかもしれない。
だが、温泉地でも減少中という伝統的な旅館は、進化を続ける創作和食とは対称的に、近年は形式を重視することで生き延びてきた。現在では独自のモダン化を進める宿も増えてきたが、そんな「新しい日本」に慣れた私たちでも驚くような進化を遂げた日本旅館がある。
(え、このビル、旅館なの? 言われてみれば、よく見ると和風な柄を纏っているような…。)
大手町の「星のや東京」は軽井沢・京都・竹富島・富士を舞台に独創的なテーマで非日常を提供してきた「星のや」にとって5番目の宿泊施設だ。開業は2016年7月なので8年目に突入したわけだが、開業当時に人々を驚愕させたインパクトは、いささかも薄れていない。その証拠に、今年の9月19日、ロンドンで開催された第1回「The World’s 50 Best Hotels 2023」の授賞式では、選出された日本の3施設の一角として堂々のランクイン。そのクオリティが世界クラスであることを改めて証明した格好だ。
同宿のコンセプトは、「塔の日本旅館」。ひとこと聞いただけでも想像力をかき立てられるが、単なるイメージワードではない。実際に地上17階・地下2階と、本当に「縦の宿」を実現しているのだ。館内は畳敷きで、玄関や伝統的な和室、お茶の間ラウンジ、そして温泉施設などが置かれ、一貫した和のデザインの中で伝統的なしきたりを重んじながら、それでいて現代に相応しい独自の進化を展開。単にこれまでの宿泊機能をビルに詰め込んだのではない「新しい日本旅館」の像が描かれているのだ。
その外観は、遠目には落ち着いたビルに見えるが、近づくと上の写真の通り江戸小紋の「麻の葉くずし」柄の格子で覆われていることに気付いて、思わず嘆息。館内は完全に高級旅館なのだが、圧倒されるような空間デザインの宝庫だ。立ち止まって見惚れてしまうこともしばしばで、まるで異空間が出現したかのよう。洗練を極めた和の世界は、一見の価値アリだ。
(高い天井、室礼と框。玄関には一瞬、自分がいまどこにいるのか分からなくなる光景が。)
さて、では旅館の古の伝統に則り、玄関で靴を脱いだら奥へと進もう。玄関先の木立から大きな青森ヒバの扉を抜けて中に入ると、歳時記を表現した縁台の室礼が。旅館という空間は、その端々にいわゆる「日本の四季」が感じられることがマストだが、春の桜、夏は縁日、秋のお月見、冬には柚子湯…などなど二十四節気に応じてサービス内容を変化。また、空間設計、畳や和紙、竹素材のなど自然素材を多用しながら、移動するたびに季節の節目を伝える設えが出現して「旅情」をくすぐってくれる。
14フロアある客室階は、それぞれ宿泊者だけが出入りできる。各階とも1軒の日本旅館のようなイメージで構成されており、各6室の客室のほか、裸足で行き来して自由に寛げるお茶の間ラウンジも設置されている。客室は、伝統の建築様式と和モダン的な新たな解釈が共存する畳部屋。建物の外観を彩っていた江戸小紋の柄は、時間帯ごとに移ろう外部の光で客室内にも投影され、まるで非日常という結界を張ったかのような趣に。空間に陰影を創る光と影も、時代劇や古い日本映画でお馴染みの和の空間演出を思い起こす。
(各フロアに用意されたお茶の間ラウンジ。憩うのもよし、仕事を片づけるもよし。)
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2024年10月25日 発行
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