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3日間、4年弱。わずかな時間が一生忘れられなくなる、それが旅

3日間、4年弱。わずかな時間が一生忘れられなくなる、それが旅

2024年11月29日

あれは3年ほど前のこと。
ある朝、目が覚めると同時に、私は行動を始めました。
「あてのない旅人よ、あなたは何処へ何をするために旅に出るのか?」
「行き先も、目的さえも定かではないのに、いったい何処へ?」
それでも、私は行動せずにはいられなかったのです。

新幹線の旅も悪くはないのですが、
その日は夜汽車に揺られ揺られるひとり孤独の旅がいい、と思いました。
日本の鉄道は正確無比なのに、列車の旅はなぜか時間に振り回されます。
ああ、時計の針のわずらわしさよ。

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上野、高崎を遥かに過ぎ、今回は大好きな信濃「小諸」駅でも降りず。

そろそろ上田が近づいてきました。
というわけで、慌てふためくことなく、気儘に途中下車しましょうか!

上田駅からは、上田鉄道の別所線に乗り換え、鄙びた温泉街へ。

幸運なことに、宿は空いているとのこと。
「人間万事塞翁が馬なり、だから楽しみなさいよ」と貴女は教えてくれました♪

旅の歓びで私の脳が芸術化されたのか、初めての温泉街をゾクゾクしながら歩きます。

如何にも島崎藤村に成り切って、
🟥昨日また かくてありけり 今日もまた かくてありなむ この命 なにをあくせくと…🟥
なんて、思わず口ずさんだり。

旅に出て「何かを学ぶ」なんて、まったく考えていません。
されど旅は、最善・最大・最高なること、
あるいは、沢山の悪きことなどを知らぬ間に教えてくれるのです。
貴方も旅に出ませんか?

さて、せっかくの信濃路の旅。
今回は、蕎麦やおやきの名品よりこの地ならではの家庭料理が食べたいなあ。
でもまずは、温泉♨️に浸り汗を流しますか。
露天風呂に横たわり、信州の山々の緑に癒されて。

もしかしたら私、種田山頭火さんかしら?
🟩 良い宿で どちらも山で 前は酒屋で 🟩
そんな句が瞼に浮かびます。

宿の若女将に話しかけたら、「うちで造りますから」と、 おやきをわざわざ造ってくださいました。
何でも、若女将は鬼無里(きなさ)から嫁入りされたそうで。
鬼無里のおやきと言えば超有名ですが、不思議な巡り合いかしら?

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あれからあっという間に歳月が過ぎ去りましたが、
私の身体全体に焼きついた記憶はいまだに忘れられません。
これも旅の成せる技かしら。

そんな温泉好きの私、「好きな歌人は」と問われれば、若山牧水でしょうか。
この野天風呂に浸りながら牧水が愛でたのは、
グラスに満たされた赤い色の渋い葡萄酒か、それとも信濃の國酒(日本酒)だったのか。
大自然の空の下、アボンダンス(ワインの水割り)を揺らしながら…と考えるだけで
私もゾクゾクワクワクしちゃいます。

とは言え、この旅はわずか3日ほど。なんと短く悲しいことか。

1か月、何〜んにも考えず、ぼーっとこの碧空の下で過ごせたら、
私の人生観を130%ほど変えてくれるかも知れないのに。
そんなわけで、86歳4か月も人生を楽しんでいるにも関わらず、
まだまだ目的のない旅を探し求めてしまうのです。

振り返れば、旅そのものが私の仕事だったような気もします。
その端緒は二十歳前、気がついたら太平洋や大西洋の怒涛の波を潜りながら
南米や欧州の港で船舶乗組員として働きました。
ほんの7年弱の海上生活の過程にワインとの出逢いがあり、やがて海から陸(おか)へ。

日本が大きく変わろうとしていた真っ只中の1958年12月、
東京港区芝に高さ333mというどデカい電波塔が建立されました。
南米から東京に帰って来た私たちは、度肝を抜かれたものです。

巴里のエッフェル塔よりも高い塔がこの日本に!

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そして翌年5月には、第18回夏季オリンピックの開催地が東京に決定したという大ニュースが。

開催前年の1963年、私は考えに考えた末に船会社を辞めて、
東京YMCAのインターナショナルホテルスクールで1年間学び、
翌1964年にオープンしたばかりのホテルニューオータニへ。
この年の10月には、東京〜新大阪間で新幹線も開業しました。

我が国では3年ですが、フランスで「石の上」で過ごすのは5年。
ということで、それからの5年間をニューオータニでお世話になり、
1969年のある出逢いをきっかけにワインの研修の旅で欧州へ。
これが、ムッシュ ピエール・シャリオール氏とのご縁の始まりでした。

彼の一言一言に、私は翻弄されました。
「交通費は自分で持ちなさい」「ボルドーに着いたらすべて私に任せなさい」
そして「フランスに来る前に、他の国の不味いワインも体験して来なさい」とのこと。
🍷他の国の不味いワイン🍷ですか!

彼の指示に従って、ひとまず音楽の聖地・オーストリアへ。
ワイン以外にも沢山のことを学んだ後、次はドイツへ。
そんな生活を続けるうちに、あっと言う間に2年の歳月が過ぎ去りました。
そして、夜行列車でフランクフルトから巴里へ、さらにボルドーへ。

当時、つまり1970年代のボルドーは、誰もが認める「ワインの聖地」。
アキテーヌ地方での1年半もすぐに過ぎ、4年弱というわずかな時間ながら
欧州のワイン文化のほんの一端を覗き、帰国したのです。

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ワインを購入した私たちの管理の拙さや天候不順などの理由は別とすれば、
私は「不味いワインなどあるはずがない」と信じています。

並みのワインにも、超高級ワインにも、必ず利点と欠点があります。

超高級ワインの味わいは最高ですが、飲み頃を迎えるまでかなりの辛抱が必要となります。
逆に、並のワインは早く愛でることが可能なので、私自身はアボンダンスを愛でています。
水と割るワインは、基本的に1,000円以下です。

値段など関係なく、もっとワインを信じてあげませんか。
なぜなら、真実はワインの中に存在するのですから。

In Vino Veritas ‼️


著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
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【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
【42】散切り頭を叩いてみれば…明治は遠くなりにけり
【43】風の道、森の恵み…ワイン造りに大切なもの。
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