2024年7月25日
日本を代表する劇作家・演出家の一角にして映画監督、小説家、エッセイストにコラムニスト、そしてラジオパーソナリティという顔も持つ鴻上尚史さん。来月11日からは、紀伊國屋ホールで『朝日のような夕日をつれて2024』の公演が控えている。
同作品は、自身が結成した劇団「第三舞台」の旗揚げ公演として1981年に初演された名作。2014年まで実に7回にわたり上演されてきた人気作だが、今回は何と10年ぶりという待望の舞台となる。初演から40年以上を隔てた今、この時代に上演する手応えやいかに。今月のテーマ「資産運用」に合わせて、将来との向き合い方に対する持論とともにお話を伺った。
|今回は5名のキャストを一新されていますね。大高洋夫さんや小須田康人さんが不在で、全員20〜30代の『朝日』となりますが、俳優の皆さんとの接し方は変わりますか?
変わらざるを得ないですね。この作品を書いたのは22歳の時で、当時は罵声で奮起を促すような時代でしたが、今では不適切ですから(笑)。でも、劇団を立ち上げて10年くらいの頃から、そういうスタイルを脱していたんですよ。
|え、そうなんですか。ガンガン言ってグイグイ引っ張っていくのではなく…。
そう、どちらかと言えば意見を聞くスタイルで。昔は「黙って俺に付いてこい」という絶対的リーダーが理想でしたが、僕はプロセスに責任を持つファシリテーター的なスタンスを目指していたんです。
|90年代半ばだと、先見の明ということになりますね。
俳優への演技指導も一方的に指示するのではなく、議論の中で気付いて発案してもらうようなスタンスがベストかなと気付いたんです。僕がまくしたててしまうと、誰も何も言えなくなりますからね。最近は、顔合わせでも冒頭に軽いゲームを楽しんで、場の雰囲気をほぐしたり。
|素敵なリーダー像です。ビジネスにも通じますね。
似ていると思います。この頃はアイスブレイクという言葉が定着していますが、あれも演劇界から広まったものですからね。自分の成功体験で突き進むのではなく、やはり周囲の気持ちを考慮しないと。
|今月のビズスタは資産運用がテーマなのですが、将来についての展望は描いておられますか。何かと不透明で不安の大きい時代ですが…。
先が見えないことは確かに不安ですが、僕は大学卒業と同時に見えている道をすべて踏み外してきたので、慣れていると言いますか(笑)。むしろ、だからこそ面白いと思うんです。たとえばARにしても最初はよく分からない技術でしたが、大ヒットゲームが使い方を見せてくれてからは可能性の塊になりましたよね。先が見えない中にこそ未来が隠れているよ、と。
|先入観をリセットして可能性を見出す大切さは、人生設計から投資姿勢まですべてに通じる気がします。では、記念すべき10年ぶりの『朝日』上演に向けてのメッセージを。
今の話にもつながりますが、『朝日』は玩具会社が舞台のひとつで、今回は「生成AIの時代が進んだ結果としての未来で、玩具はどんな形をしているのだろう」というテーマを内包しているんです。現代のスマホもこの作品を書いた40年以上前の世界では想像もつかなかったわけですから、ぜひ僕たちの予測を楽しんでいただければと思います。
鴻上 尚史さん
1981年に劇団「第三舞台」を結成。『朝日のような夕日をつれて’87』(87)で紀伊國屋演劇賞、『天使は瞳を閉じて』(92)でゴールデンアロー賞、『スナフキンの手紙』(94)で岸田國士戯曲賞、戯曲集「グローブ・ジャングル」で読売文学賞を受賞する。現在はプロデュース公演のほか、ミュージカルや海外公演など幅広く作品を手掛けている。舞台公演の他にも、映画監督、小説家、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、テレビの司会者などとしても多岐にわたり活動。自身が、作・演出を手がける、紀伊國屋ホール開場60周年記念公演KOKAMI@network vol.20『朝日のような夕日をつれて2024』が8月11日〜9月1日まで紀伊國屋ホール、9月6日〜8日までサンケイホールブリーゼにて上演される。
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2024年10月25日 発行
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