2017年10月26日
今回は、ポートレート写真の巨匠であり、現在も幅広くご活躍中のフォトグラファー山岸伸氏と、フォトグラファー黒田明臣による対談をお送りします。
[黒田]
山岸さんと対談させて頂けるとは、駆け出しの自分にとっては大変恐縮で、柄にもなく緊張しています。同時にとても光栄にも思います。改めましてよろしくお願いします。
まず最初に聞きたいなと思っていたことなんですけども、長年商業写真の第一線でご活躍されてたわけじゃないですか。
それこそ写真に興味を持つ前の自分ですらお名前は過去から存じ上げていましたし、いまこうして改めて知ってみると作家としてもご活躍中ですよね。
この両立をしながら、今もなお精力的に活動されているその理由と原動力ってなんなんでしょう?
[山岸]
今は事務所とそこで働いてる子たちを養っていこうって気持ちと、あとは自分本人の為かな。
これまであまりに自分の事を考えないで生きてきたから(笑)
僕は幸せな人生だったからさ、芸能の仕事で最初に気に入られてからずっと仕事が来て、ただひたすらに写真をやって来た。だから営業にも行ったことが無いんだよね。
そもそも、儲かった理由の一つって、芸能プロダクションから仕事をもらってるから出版社が写真の権利を持ってないわけ。そうすると二次使用が使えるんだよね。それが大きかった。
[黒田]
あーなるほど。それって大きな違いですよね。商流がもはや違うというか。
[山岸]
そう。だから、出版社は僕らには一言ないと写真が出せない。名前だけ入れれば良いとはならないんだよね。だから僕の写真を使うときは必ず副編集長とかがきて「二ページ◯◯万円で良いですか?」とかなるわけ。
他の人は出版社が権利をおさえてるから二次使用でも追加でお金払うわけではないじゃん。そういう意味でも出が違うっていうか、まあだから大きくは売れなかったよ。他のカメラマンは大きな媒体がついてたからそりゃもう毎週◯◯とか撮っていて、売れてたね(笑)
だけど僕は置いてかれて5番手くらいに居たわけだけど、最終的には事務所やそこで働いてる人たちを養っていっているという人たちはだいぶ減ってしまった。その中でまだ事務所があって働いてくれる人がいるって、それはやっぱり違うよ。
[黒田]
五番手くらいとかおっしゃってましたけど、決して一番太かったわけではないものの、結果的に太く長くってことですよね?いまの自分には考えられない世界ですけど、先を見てそう徹底していたのだとしたらすごい先見の明ですね(笑)
[山岸]
まあ僕は一切贅沢しなかったから。車もフェラーリとか買わなかったし。ゴルフもやらなかった。買ったのは家と船を買ったくらい。船は危ないと思ってすぐに売ったけど(笑)
だから、無借金だったよ。仕事でサイパンとかグアムとかハワイに行っても、遊ばないでロケハンに行っちゃうし。
そんな感じでずーっと、写真の事しかしてなかったね。
[黒田]
純粋というか真面目ですよね。写真だけを見ているというか。真っ当にって言ったら変ですけど(笑)
[山岸]
一番ふざけたカメラマンみたいだけど一番真っ当だから!(笑)撮影は一回で終わりだと思ってるから周りともベタベタしないしさ。
[黒田]
いやいや、ふざけたカメラマンなんて思ってません(笑)
良い意味で普通ではないとは思いますが(笑)
[黒田]
なんというか写真を撮る姿勢がものすごいストイックですよね。しかしそのベタベタしないというのは、どういった理由なんですか?
[山岸]
昔からタレントと仲良くならないのは、タレントにインパクトを与えないように、自分を主張しないようにしてるから。だからよく、メイク中のモデルにカメラマンが話しかけに行ったりとかする事はよくあるみたいなんだけど僕はしない。コミュニケーションをとって良い表情を見極めるみたいなのは大っ嫌いだから。
僕はそんな時間があったら撮影の流れを決める。どこで撮るとか全て決めておく。どういう風に撮ってどういう風に撮影が流れてどういう風に終われるかってことを考えるわけ。
[黒田]
なるほど、そういう意図があったんですね。その想像はできます。
グラビアの現場はわかりませんが、いつもどんな天候でも決まったクオリティで皆さん仕上げられていて、アレは本当に難しいことだなあと思います。天候やロケーションとか事前に読めない情報が多いと不安にもなりますし。
[山岸]
だからよく「撮影終わるのが早い」って言われるんだけど、それは当たり前なんだよね。だってジーーっと2時間ぐらい待ってるんだから。その間に出てきたらここで撮って、次はここって頭の中に入ってるわけ。
でもそうじゃなくずーっとタレントと喋って待っていたらロケの場合は外の天候も分からなくて何も見えない。タレントは見えてもね。
タレントを撮るったって、撮るのは自分だからさ。そんなことやってんなら自撮りしてもらったほうがいいよ。
[黒田]
確かに確かに。そうかもしれないですね。まあ自撮りはほんと下手に良いカメラで撮るより遥かに盛れますから(笑)
例えばロケ撮影だと、天候が刻一刻と変わるわけじゃないですか。
自分は待っている間って気が気じゃないというか…でもそういう気持ちをその最前線にいた方でも持っているというのは、少し安心する部分もあります。
「はるか遠くにいる神々もそういう気持ちあるんだ。」という(笑)
[山岸]
そうだよ、雲見ながら「今だよ今」って思いながらさ。でもこんな仕事しながら、土砂降りになっても仕事するんだよね。伊達に35~40年と写真撮って知恵を持ってないからさ、雨降ろうが、どんな天候でも撮れる。「相手が濡れなきゃ良い、僕は濡れてもいいでしょ」みたいな。だから最低限濡れても大丈夫なカメラを使えば良いという発想なわけ。
[黒田]
経験や発想とか知恵でカバーしてるんですね。自分なんかだと天候は本当に厄介だと思っちゃいますもん。タレントさんのスケジュール抑えなおすのも難しいですし。
それならスタジオで確実に撮れるビジュアルに持って行きたくなっちゃいますね。
[山岸]
そういうのは経験だから。若手の人たちにはまだそういう感覚は無いと思う。僕はその辺ずっとやってきたものがあるからね。
だってスタジオ行ったらライト三灯くらいセットしてF8で切っちゃうでしょって。ポラ引いちゃえば写真の上下わかるでしょって。そんな何十回もやる必要ないからさ。でも僕は毎日山ほど撮ってたから。その中のどれかを引き出して入れ込めばいい。セットはしておいて、来るのを待てば良いだけってのも良いんだけどね。
[黒田]
今でも、求められているビジュアルがあって、そこに天候の要素を必要とする場合なんかは本当に困っちゃいます。自由に撮れる環境ならまだ方針転換もできるんですけど。
その点は山岸さんの場合、いまは経験もそうですし、当時もやっぱり「山岸伸の写真が良い!」という所からはじまっていたことも大事なのかなと。結局、写真力というか(笑)
[黒田]
それにしても山岸さんのそのスタンスというか、そういった姿勢は端から見ていて異色な感じがします。
[山岸]
そうだよ。ずっと一匹狼で、来る仕事しかしなかったから。きたものしかやらない。それできた人を一番にしたい!と思うようにしてる。
[黒田]
豪胆さと兄貴分というか。男!って感じがしつつも、繊細さと謙虚さも持ち合わせてるような気がするんですよね。
[山岸]
そう、繊細なんだよ(笑)
それは、人を撮るからかな。人を撮ったことがない人って傲慢なんだよね。
撮らないと 相手の怖さ を知らない。たかが相手の写真を撮るって行為でもそりゃ町に歩いてる人を撮るのとは訳が違うからね。プロに撮られるってことは、何を望んでるかって事。やっぱりプロに撮られるってことは納得いく写真を撮られたいわけ。まずそれをプロが超えてなかったらどうするんだ、って思うよね。
[黒田]
期待を裏切ってしまうっていうのは本当に恐ろしいですね。
[山岸]
二度と来ないからね、仕事は。特にタレント系は、「あの人だめ~口ばっかり~」とか、本人が言わなくても周りが言うし、それが周っていく。
そういう意味でも、今のカメラマンはその怖さを知らない気がするね。
[黒田]
それは若干、自分も感じています。自分は長年写真をやってきたわけじゃないので、あまり人を撮るという行為が普通じゃないという感覚がまだ少し残ってるんですね。
それが人を撮って仕事をすると世の中に出て残るわけじゃないですか。これって撮られる側も慣れているだろうしそれが仕事だろうとはいえ、やっぱり怖さがあると思っていて。アマチュアを撮る時も、自分がプロとしてとアマチュアを撮る怖さや責任もありますし。
タレントを撮る時も、その人たちが何万に見られる写真を撮っているというプレッシャーは常に感じながらやっています。
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2024年10月25日 発行
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