2017年9月28日
世界の舞台で喝采を浴びる国際的なプリンシパルから、日本を代表する希代の振付家・演出家へ。現役のバレエダンサーであり、紫綬褒章をはじめ数々の芸術賞に輝く天才芸術家・熊川哲也氏が率いる「Kバレエ カンパニー」による完全新作『クレオパトラ』の公演が迫ってきた。バレエと言えば敷居が高く感じることもあるが、知識がないからと言って毎年延べ10万人という驚異的な観客動員を誇る「感動」を見逃してはもったいない。そこで、バレエ公演の魅力と今回の新作の見どころについて、熊川氏ご本人に尋ねてみた。
―よく「バレエは総合芸術」という表現を耳にしますが、どんな部分に注目して鑑賞すればよいでしょうか。
バレエは舞台美術や音楽、そして舞踊という幅広い芸術分野を内包していますが、自由に楽しんでいただいて大丈夫ですよ。彫刻や絵画もそうですが、人々に感動を与えて幸せな時間を創るという意味においては、芸術であると同時にエンターテインメントでもありますから。
― 目の前の舞台が描く世界に身を任せるという感覚でよいのでしょうか。
もちろんです。各分野の一流芸術家が集まって成り立っている以上、感動しないわけがないですから。たとえば、大草原を目の前にすると「きれいだなあ」と見惚れますよね。バレエには、そんな素直な感動を呼び起こす力がありますので、ご自身の感性に身を委ねていただきたいです。
― 20代の頃と40代の現在とでは、バレエ演出の方向性に変化はありますか?
若い頃は、物語をクリアに伝えたいと思っていましたので、わかりやすい演出を心がけていました。たとえば、バレエには、「マイム」という身体表現があります。パントマイムと言えばお分かりかと思いますが、身振りや手振りで感情を表したり、ストーリーを説明する表現手法ですね。これを多用しながら物語を理解しやすく整えることで、バレエファンの裾野を広げたいと願っていました。
最近は、マイムは最小限に留めて、観客の皆さんご自身の想像力で自由にお楽しみいただきたいなと考えるようになりました。まさに「空気をまとって踊る」ようなバレエを追求したいと思っています。
― 来月6日から上演予定の新作バレエ『クレオパトラ』が話題を呼んでいますね。なぜ、クレオパトラを題材にしようと思ったのですか。
バレエには古典と呼ばれる作品があります。たとえば、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』などがそうですが、数が限られていることもあって、バレエ団の活動の幅を広げるためには新作の創作が不可欠です。
おかげさまで、これまで発表してきた作品は多方面からご評価をいただいてきましたので、今回は「これまで以上の驚きを提供できる作品」を目指しています。2012年の『シンデレラ』は全公演完売となりましたが、これを超える作品を創りたいと考えた時、クレオパトラという女性は大きなインスピレーションを与えてくれました。
― では、公演の見どころについて教えてください。
まずは、何と言ってもクレオパトラを踊る中村祥子と浅川紫織ですね。スタイルに恵まれているだけではなく、どんな作品も表現できる技術をもつ中村は世界最高のダンサーの1人ですし、圧倒的な美質に恵まれた浅川も17歳の入団時より自ら大事に育ててきた逸材で、まさにいま全盛期を迎えています。2人の異なる魅力にご注目ください。
― 新作について、読者へのメッセージをお願いします。
クレオパトラは「男を惑わす魔性の女」というイメージもありますが、国を背負う女王から愛を求めるピュアな1人の女性へと移り変わる「人間の変化」を描きたいと思っています。今回は、カール・ニールセンという知る人ぞ知る作曲家の作品群から聴き応えある舞台音楽を仕上げることができましたし、舞台衣裳デザイナーの前田文子さんは周囲の男性たちも含めてイメージ通りの人物像を創ってくれました。誰も観たことのない舞台になると自負していますので、ぜひ劇場に足をお運びいただきたいですね。
熊川 哲也
1987年、英国ロイヤル・バレエ学校に入学。1989年、ローザンヌ国際バレエ・コンクールで日本人初のゴールド・メダルを受賞。東洋人として初めて英国ロイヤル・バレエ団に入団、わずか4年でプリンシパルに昇格。1998年に同バレエ団を退団、翌年Kバレエ カンパニーを設立。文部科学大臣賞(舞踊部門)、モンブラン国際文化賞など受賞歴多数。2013年、紫綬褒章受章。
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2024年10月25日 発行
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