2017年9月28日
ワインを楽しく飲む方法として、「供出温度」は重要なテーマのひとつです。実は、一般的によく言われる「赤ワインは常温で、白ワインは冷やして」では、ワインの楽しみが半減してしまうことをご存じでしょうか。
たとえば、フランスはブルゴーニュの最北端に位置するシャブリ地区では、法律上4つのタイプに大別される辛口白ワインが生産されています。最高級の畑を意味する「グランクリュ」から、単に「シャブリ」と呼ばれるワイン、あるいはもっとポピュラーな「プチシャブリ」までありますが、もしもすべてのクラスを「シャブリの辛口白ワイン」とひと括りにして同じ温度で提供するソムリエがいたら、プロとしては残念ながら失格です。
ル・モンラシェと呼ばれる白ワインなどの提供温度は、さらに微妙です。白ワインだからと言って画一的な温度で味わってしまっては、せっかくの偉大なるワインも台無しでしょう。赤ワインも同じで、ただ単に「常温」ではなく、熟成年数や醸造方法、あるいは生産年などによって、愛でるに適した温度も微妙に変わってくるのです。
…私ですか? 冒険的・経験的感覚論で申し上げますと、白でも赤でも、偉大なワインになればなるほど、15℃~19℃くらいの温度が好みです。逆に、テーブルワインと呼ばれる大衆ワインなら、赤・白関係なくワイン倉(13℃前後)から出したくらいの温度がよいですね。シャンパーニュ酒やスペインのカヴァ酒などは、少し冷やし気味が好きです。
貴腐ワインに代表されるような甘口のワインなら、いっそう難しくなります。たとえば、前菜として供されるフォアグラのブリオッシュに合わせる時と、食後のデザート時にサービスされるソーテルヌの貴腐ワインでは、饗応に相応しい温度は異なるはずです。ちなみに、甘口のワインを食前酒として飲むなら、1~2杯が適量かもしれません。医学的には、食前に甘味の強いものを摂ると、食欲を抑えてしまう「胃の糖反射」が起きるのだとか。
ボルドーに住んでいた頃のことです。友人宅を訪ねると、広々とした庭に通され、ウェルカムドリンクとしてソーテルヌの貴腐ワインをよくいただいたものです。その1杯で、旅の疲れがどこかへ吹き飛んでしまったりするのですから、不思議ですよね。こういう場合は、8℃くらいに冷えているのが好みでしょうか。
前置きが長くなりました。今日は赤ワインの「お燗」のお話です。
秋が短い欧州では、暑い夏の季節が過ぎ去ると、あっという間に冬将軍の到来となります。街のあちらこちらで、クリスマス用商品のマルシェが店開きを始めます。このマルシェを訪ねる人々の楽しみのひとつが、今日ご紹介したい「グリューワイン」です。
ドイツ語で「Glühwein」、フランスでは「vin chaud(ヴァンショー)」と呼ばれますが、要するに「ホットなワイン」のこと。造り方は簡単です。お鍋の中に安い赤ワインを入れて、シナモンやクローブ、レモンピールや砂糖、ナツメグ、グリューフリクスなどを加えて加熱。沸騰寸前で火を止めれば出来上がりです。
このグリューワインは、かなり古くから存在していたようです。特に欧州の北部では、冬の季節に風邪をひかないためのドリンクとして定着しています。1969年の冬、私は西ベルリンに暮らしていました。不注意から風邪をひき、薬をもらおうと小さな病院に出かけると、お医者様から強い口調で叱られました。「風邪気味くらいで病院に来るな!」
この時、グリューワインが風邪を治す特効薬であることを知りました。以後、私は「風邪気味かな」と思った時は、グリューワインを飲むことにしています。私には、これが本当によく効くんですよね。そんなわけで、教えてくれた西ベルリンの医師ハンスさんには、今でも感謝しています。
そろそろ冬を意識する季節ですね。皆様も、どうぞこの時期の楽しみ・グリューワインをお試しくださいませ。
著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。
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2024年10月25日 発行
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