2017年6月29日
素晴らしい朝を迎えた、とある日曜日。私は、急に旅に出かけたくなり、それまで集中して読んでいた本をバサッと閉じました。目的地は、山梨県甲州市。「原産地でワインが飲みたい」といういつもの欲求が、突然、心に浮かんだのです。
140年の歴史が詰まった勝沼は、「日本ワイン」を語るに欠かせない大地。愛車を飛ばせば、1時間ちょっとの距離です。そうだ、勝沼へ行こう!
ワインファンにとって、「原産地を訪ねる旅」は、大きな愉しみのひとつです。葡萄畑を歩いてみる。葡萄の品質に影響を与える河川を眺める。近くの山岳の名前や、葡萄畑の海抜の高低差について調べてみる。あるいは、産地を見守ってくださる神社仏閣を巡ってみる……。現地でのいろいろな経験は、その地のワインの魅力や歴史などをひもとくのに大いに役立ちます。
私の場合は、土地の人々とグラスを傾けてともに語り合うのが、旅の大きな目的のひとつです。時には散髪屋さんに入ってワインの情報を仕入れたりもしますが、これは国内だけでなく、フランスやドイツに出かけた時も同じです。なぜなら、「親父さん」たちとの会話は、新たなる発見の宝庫だから。
原産地を訪ねたら、そのままその地に一泊するのもおすすめです。産地の民宿に宿泊すれば、そこは「ワイン民宿」となります。宿の皆様と一緒に、家族のようにその地のワインを堪能すれば、あなたのワイン人生には新たな「真実」が追加されるはず。朝霧の中の葡萄畑の散策、葡萄畑のど真ん中での朝食なんて、まさに最高のひとときですよ。
現地に滞在して味わうワインは、ひと味違います。これは、ぜひ皆様にお伝えしておきたいですね。日帰りのワインツーリズムなんて、私には考えられないくらいです。
今回は山梨県でしたが、時には山形県あたりまで車を飛ばすこともあります。それは「そこに素晴らしいワインがあり、美味しい食べ物が存在するから」です。素晴らしい人々が待っていてくれると思えば、長距離の移動も苦になりません。
周囲を散策し、その土地ならではの料理を味わいながら、待望のワインを楽しむ。その前に、温泉につかって旅の疲れを癒しておくのもよいでしょう。もちろん、その地のワインについて事前に学んだことを、頭の中で復習しながら。
さて、この日に出かけた勝沼には、1996年に新設された「勝沼図書館」があります。ワイン関係の蔵書も豊富なので、ワイン旅行客にはありがたい存在。また、同じ敷地内には「市立勝沼ぶどうの国文化館」もあるので、約140年にもわたる歴史が凝縮されている場所と言えるでしょう。お出かけの際は、すぐ近くにあるメルシャンのワイン資料館も、どうぞお忘れなく。
JR「勝沼ぶどう郷」駅から歩いて10分ほどの場所には、「ぶどうの丘」がありました。高台から一望する葡萄畑は、素晴らしい光景ですよ。なお、勝沼ぶどうの丘には温泉付宿泊室もありますが、言うまでもなく大人気。かなり前から予約しないと利用は難しいとあって、この日のような突然の訪問には、残念ながら向きません。ちなみに、ここには大きなワインショップもあり、地下のセラーでは180種類以上のワインを試飲できますので、ぜひ一度。
スーパーあずさで行くも良し、マイカーで気ままな旅も良し。おすすめですよ、勝沼。
* * * * * *
私の「ワインの旅」には、選び抜いたマイワイングラスが必ず同伴します。オーストリア製のロブマイヤーで、同行者によっては6個ほど持参します。なにしろ、よいワインはグラスを選びますので、産地で微妙な味わいを感じ取るには必需品。そして、ワインの愉しさのためにグラス選びに悩むのも、また愉悦の時となったりするのです。
さあ、あなたもワインの原産地への旅へ。きっと、あなたのマイグラスも喜びますよ。
著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。
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2024年10月25日 発行
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