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一杯のワインとテディベアが、世界平和に役立ちますように【ワイン航海日誌】

一杯のワインとテディベアが、世界平和に役立ちますように【ワイン航海日誌】

2022年9月30日

世界の子どもたちの憧れであり続ける「テデイベア」が、今年で120周年を迎えました。記念すべき年、これを機に愛すべき熊の世界を旅してみませんか?

と言っても、いきなりテディベアの生まれ故郷、ドイツはギンゲンの街へと出かけるのはハードルが高いかも知れませんね。そこで、まずは頭の中で、空想の旅を。

その歴史を調べてみると、テディベアという呼称の名付け親は、この商品ジャンル自体の生みの親であるドイツのシュタイフ社ではないそうですね。由来には諸説あるようですが、今日定説とされているのは、1902年の秋、第26代アメリカ合衆国大統領のセオドア・ルーズベルト大統領にまつわるエピソードとか。

趣味の熊狩りに出かけた際に傷ついた熊に出逢った彼は、スポーツマン精神に反するとして、その熊を撃ちませんでした。この出来事を報道した新聞記事を見たとあるお菓子屋さんが、挿し絵にインスピレーションを得て熊のぬいぐるみを作製し、大統領のニックネームの「テディ」と名付けて販売したそうです。

これが大人気を呼び、彼が設立した人形製造会社はのちに米国最大のメーカーとなったそうですから、まさにアメリカンドリームの物語ですね。

一方、テディベア本体を語る上では、1880年創業のシュタイフ社は欠かすべからざる歴史的なトップブランドです。匠(マイスター)たちが一体ごとに手作業で造る品質は圧巻で、限定商品にはシリアルナンバーが刻まれ、証明書も発行されます。

同社の製品の素晴らしい品質と実績、そして先のルーズベルト大統領の逸話がひとつになって、世界中で熱狂的なブームを巻き起こしたのかもしれませんね。

ワイン航海日誌202209③

さて、テディベア誕生の萌芽を辿ると、ドイツ南西部の工業都市シュツットガルトから車で1時間強の場所にあるギンゲンという寒村に行き着きます。時は1880年、主人公は『ヘンゼルとグレーテル』の舞台として有名なこの地に住んでいたマルガレーテ・シュタイフというひとりの女性。

姉と共同経営の洋裁店を経て3年前に会社を興していた彼女は、大人には針刺しとして、子どもにはぬいぐるみとしてフェルト製の象を作製。これを販売してみたところ5千体以上も売れる大ヒット商品となり、本格的に動物のぬいぐるみの製造を開始します。ちなみに、この時の象は、世界初のぬいぐるみとされています。

ワイン航海日誌202209②

マルガレーテは1847年生まれですので、当時33歳という計算になります。1歳半の時に小児麻痺を患い、右手と両足が不自由となり車椅子生活を送ることになりますが、とても明るく、前向きな女性へと成長したそうです。ない物を求めるのではなく、今という瞬間を大切にベストを尽くす。それが、グレーテル(おてんばな女の子)と呼ばれて誰からも愛された彼女の終生変わらぬスタイルとなりました。

1902年、マルガレーテを手伝っていた甥のリチャードは、本物の熊のように毛足の長いモヘア製のぬいぐるみ、即ち世界初のテディベアを着想します。翌年の見本市で発表すると、米国人バイヤーの目にとまって大ブームの道を踏み出しますが、非常に手の込んだ造りで高価となったことから、試行錯誤を重ねて改良。

美しさと可愛いらしさの黄金律を求めつつ、「気軽に買い求められるように」「ベッドで一緒に眠れるように」「子どもたちが癒やされるように」といった願いを込めて進化させていきました。これが、やがて世界中の子ども部屋で愛される熊の歴史を紡いでいくことになるのです。

テディベアが世界で果たして来た役割と貢献度には、図り知れないものがあります。その可愛らしい熊は、親子だけでなく老若男女すべての人々にとっての「平和の使者」。大人の私でさえ、落ち込んだ時にはテディベアを相手にモーゼルワインを愛でると、すぐに夢の世界へと飛べるのですから。
ちなみに、同社のテディベアには、必ず色分けされたタグが付いています。

1. 白色タグ+黒文字
過去の名品のシュタイフ社の製品の復刻レプリカに付けられます。デザインが同じでも素材などが異なると、このタグは付けられません。品番、生産年、シリアルナンバーも表示されています。

2.白色タグ+赤い文字
シュタイフ社オリジナルのデザインや、地域限定、数量限定、年限定などレプリカ以外の限定品の大半に付けられます。こちらもタグの裏には、品番、生産年、シリアルナンバーも表示されています。

3.黄色タグ+赤文字
定番の製品に付けられるタグです。タグの裏には、品番の他、素材なども表示されています。

4.黒のタグ+銀文字
シュタイフクラブ限定製品(マルガレーテ、シュタイフ、エディション)の腹部左側に付けられます。特別なステンレス製のボタンは左耳に付けます。

5.白のタグ+銀文字
新しいライフスタイル商品(シュタイフセレクッション)シリーズに付けられるタグで、銀のボタンで止められます。限定品の場合は、タグの裏に商品番号以外に、限定品を示す番号と限定数が表示されています。

それぞれのタグの意味を知ると、また違った楽しみ方ができそうですね。

ワイン航海日誌202209⑤

因みにドイツのベルリンの町の紋章は熊です。

北海道で遠目にヒグマを見たら、脇目も振らずに逃げ出すことでしょう(それとも死んだフリでしょうか)。ですが、それがもしテディベアなら、『森のくまさん』の唱歌よろしく一緒に歌いたくなりそう。Why Not? 熊は大の苦手のはずなのに。

いかにもワイン王国ドイツらしいテディベアと、ベーレンアウスレーゼ。ギンゲンの街に愛を込めて!

ワイン航海日誌202209⑥左側はシュタイフ社の代表取締役社長リヒャルド・A・フスマン氏、右側は当時輸出部長のラフテイ氏。真ん中は筆者。


著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
【26】大嘗祭を控える秋。美しいお月様に見守られ、京都を訪ねる
【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
【42】散切り頭を叩いてみれば…明治は遠くなりにけり
【43】風の道、森の恵み…ワイン造りに大切なもの。
【44】風は淡い緑色…茶の安らぎを求めて静岡県島田市へ
【45】なくても生きてはいけるが、なくては人生じゃない。
【46】北海道・仁木町の雪は、葡萄とヴィニュロンの心強い味方。
【47】偉人たちが贈った賛辞とともに、ワインを愛でるひととき。
【48】木は日本の心、櫛は心を梳かす…秋が深まる中山道の旅。
【49】千年後に想いを馳せて、イクアンロー!北海道・阿寒のワイン会。
【50】葡萄が「えび」と呼ばれた時代を偲んで…「本草学」のススメ。
【51】カスタムナイフの巨匠は、なぜ「栓抜き」を手がけたのか。
【52】夢の中に御出現! 摩訶不思議な鳥居をめぐる京の旅
【53】明言、金言、至言…先人の御言葉とともに味わう春のワイン
【54】日本の酒文化のルーツは?古の縄文時代を目指す想像の旅

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